母とのこと【2】からの続きです。

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それでも、母に直接その言葉を告げることは、大きな勇気を要しました。
どうしよう。 
やるか、やらないか・・・。
ためらいも 恥ずかしさも ありました。

ところが、

・・・これが、「偶然ではない必然」なのでしょうか。
母のいる実家に、行かなければならない予定ができたのです。

また自分自身が、子育てのことで、とても悩んでいる時期でした。
書籍「鏡の法則」にあったように、もし、私が母への行動を起こすことで、私の悩みが、少しでも解決するなら・・・
そんな、ワラにもすがるような気持ちに なっていたのです。

心理的にも環境的にも、準備が勝手に整っていました。

そして、子供たちを連れて、実家に行きました。

母は相変わらず、炊事、洗濯、掃除などをいつものようにやっていました。
「何か手伝おうか?」と言っても、
「いいよ、座っていて。」と言い、
当然のように自分で済ませ、私たちのために、食事や布団を用意してくれました。

そんな母に、

「ありがとね。」

「助かるよ。」

・・・今まで以上に気持ちが入って、お礼を言う私がいました。

そのせいか、心なしか母も、私に対して優しい態度だったような気がします。いつもはよく出てくる、誰かの悪口や愚痴も、その時は、ほとんど聞かれませんでした。

 

「さあ、言わなきゃ。」

「鏡の法則だ。実践だ。」

「でも、どのタイミングで・・・。」

 

私は 何度も考えては、ドキドキしていました。
とにかく、2人きりになるチャンスを伺っていました。

・・・もうそろそろ、帰らなければならないという、1時間くらい前のこと。

微妙なチャンスが生まれました。
父や子供たちが外に出て、母と2人きりになったのです。

しかも、母が突然に、
「お前は、自分は(お母さんに)怒られてばっかりだった、って思っているんでしょ。」

などと、言い始めました。

私は焦りながら、

「えっ、いや、確かに子供の頃はそう思っていたけど、でも、まあ、今になって思えば、しょうがなかったのかなぁ。って思ってるよ。」

・・・などと言いました。

いよいよ言う時が来たのか。

でも・・・

 

そう躊躇しているうちに、
下の娘が、「おしっこ~!!」と、帰ってきてしまいました。
「おしっこ?! ハイハイ!」
私は、逃げるように娘を連れて、トイレに行ってしまいました。

 

結局その後、実家にいる間は、チャンスが訪れませんでした。

私は、母が畑から取ってきた たくさんの野菜と、スーパーで安売りしていたからと、わざわざ買って来てくれた果物などをもらい、そのダンボール箱を抱えて、実家を後にしました。

 

ダンボールと子どもたちを車に載せ、自宅へ帰るその車中。
私は、一人、自問自答を続けました。

「いいのか? 言うことができなくて、よかったのか?」

「もし、このあと 万が一のことがあって、母に一生、感謝の気持ちを伝えることができなかったとしたら、それで私はいいのか? 本当にこのまま、帰ってしまっていいのか?!」

そう考えると、いても立ってもいられない気持ちになってきました。

 

幸い、車内にいる子供たちは、おじいちゃん(父)とたくさん遊んでもらったので、実家を出てすぐに、チャイルドシートで寝てしまいました。

私は車を停め、携帯電話を取り出して、実家に電話をしました。

 

すぐに母が出ました。

「あっ、お母さん?
あの、いや、忘れ物をした訳じゃないんだけど、あの、言い忘れたことがあったからさ・・・。」

ドキドキする思いで、でも、とりあえず言えることだけ言ってしまおう、そう思い、言葉を続けました。

 

「あのさ、実家にいる間、ご飯作ってくれたり、洗濯してもらったり、
・・・子どもたちの服まで、・・・そういうの、本当にありがとね。」

「それからさ、私、子供の頃、そういうことをお母さんがしてくれてるの、当然のように思ってて、お礼も言ってなかったけど、・・・。
・・・全然、当然じゃなかったなぁ、って思って。 何かさ、私、自分で家事や育児やるようになって、全然、当然のことじゃなかったなぁ、面倒臭い時もあるんだよな、って、気がつくようになったんだよね。

だから・・・。

本当に、ありがとね。 

・・・全然、当たり前のことじゃなかったよね。 ・・・感謝しなきゃいけないことだったのに・・・。

わたし、全然、分かってなくて・・・。 
手伝いも、ろくにしなくて・・・。
本当に、ごめんね・・・。」

何だか、泣きながら母に伝えていました。

母は、多分それ(泣いていること)も察していたのでしょうが、その事は特に言わず、ただ、弱いような、優しいような声で言いました。

「・・・いいんだよ、別に。 そんなこと。」

「ただ、とにかくアンタは、無理するんじゃないよ。
いっつも忙しそうだけど、無理しないで。 とにかく、身体壊したら、しょうがないんだから・・・。」

そんな、私のことを心配するような言葉を掛けてくれました。

「うん。・・・うん。 そうだね。 そうだよね。
・・・ありがとう。
気をつけるよ・・・。」

時間にしたら、5分程度のやり取りだったと思います。
結局言えたのは、簡単な 感謝の言葉だけでした。

母がどう捉えたのかは、正直、分かりません。

でも、わたし自身は、大きく救われるような気持ちで満たされました。

ずっと、ず~っと恨んでいた母のことを、
心から感謝し、しかも、その思いを素直に伝えることができた。

「母を許した」のではない。
わたし自身が、許されたんだ。 救われたんだ。

・・・そんな気持ちで、いっぱいになりました。

子供たちが寝続ける車中で、私は、感動と安堵感に浸りながら、泣きながらのドライブを続けたのでした――。

母とのこと【4】につづく。